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ゆっくり遍路ひとり旅(11)
一夜も十夜の橋と思ほゆ

十夜ヶ橋下での大師像
 3回目の感動とボヤキのひとり歩き遍路旅の始まりである。

 明石寺から第44番大寶寺(だいほうじ)までが、また遠かった。
 大洲市から内子町を過ぎ、大瀬集落を通り、標高570メートルの下坂場(しもばんば)峠を越え、さらに標高790メートルの鴇田(ひわた)峠を越える70キロメートル、三日間の道のりだ。
 卯之町を後に56号線をひたすら歩き、標高470メートルの鳥坂峠を越えて暫く行くと、十夜ヶ橋(とやがばし)があった。 番外霊場・十夜ヶ橋永徳寺。
 巡錫(じゅんしゃく)中の弘法大師が、この橋の下で空腹と寒さの中で一夜を過ごし、一夜を十夜の長さに感じたとの有名なエピソードが残る橋である。
   行きなやむ
   浮き世の人を渡さずば
   一夜も十夜の橋と思ほゆ 
の和歌から、この橋の名がつけられたという。

 国道の脇にあり、歩き遍路はもちろん、乗合タクシーや乗用車で巡拝する遍路たちもほとんどが永徳寺で巡拝していく。バスツアーの人たちは大型車の駐車場がないから車窓から拝むという具合だ。 遍路が橋を渡るとき、杖をつかないという風習はこの橋の故事にちなんでいる。遍路ガイドブックにも、橋にまつわる伝承は書いてあるが、大師像が祀られているとは記されていない。永徳寺にはお参りするが十夜ヶ橋へ行く遍路は意外と少ないようだ。
 しかし伝承の内容から何かあるはずだと、永徳寺横から足もとの悪い石段を降りた。   ・・・あった!やっぱりあった!
 橋の下に、眠る大師像があった。わたしは灯明と線香をあげ、神妙に般若心経を唱えた。
 お参りをすませ、永徳寺のベンチで休憩をしていると、わたしと抜きつ抜かれつしていた夫婦遍路が追いついて来た。この夫婦はわたしの元気の良さ(?)から年齢を「62歳くらいでいらっしゃいますか?」と5歳ほど若く見てくれたのがうれしかった。

 その日はこの夫婦と同じ内子町の宿「新町荘本店」に泊る。
 内子は、江戸時代から明治にかけて製蝋(せいろう)で栄えたところであり、なるほど大壁造りに白壁の旧家が通り沿いに軒を連ねている。どことなく岐阜県の古川町に似た趣を感じる。大正5年に本格的な歌舞伎劇場として作られた内子座も中々趣のある建造物であり、ここ一帯は、国の重要伝統的建造物群保存地区とのことサスガ、立派なものである。

 翌日はスタート間もないことでもあったので、二つの峠越えを含んで36キロメートルのちょっと無謀な計画をしていたため、宿に朝と昼のおにぎりを用意して戴き、宿を6時に出た。
 宿を出て1時間ほど小田川のせせらぎを聞きながら県道379号を歩いていると天気予報どおり雨が降ってきた。
 農家の軒下をお借りしポンチョを着用、この日は終日雨で降ったり止んだりが続いた。調子に乗ってムリな日程を組んだ事もさることながら、昨年大活躍のポンチョの防水をする事を忘れており、雨が浸透してくるのにはマイッタ、、、又、雨に濡れた手が冷たくかじかんでしまい軍手を取り出し着用・・・疲れるが、一服していると寒さが襲ってくるため、休憩時間を短くこまめに取りながら体にムチ打ち歩き続けた。
 宿から26キロメートル程来た地点から標高570メートルの下坂場峠・・・4キロメートルほど進むと今度は標高790メートルの鴇田峠を四苦八苦して越え、久万高原町のビジネスホテル・ガーデンタイムに着いたのは午後5時を過ぎていた。
 このシーズンは毎年九州、四国、山陰地方の高校生のラグビー大会が久万高原町で開催されている為、どの宿も満員との事で当初狙いの宿は取れなかったが、運良くこのホテルを取ることが出来た。
 早速、冷えて疲れきった身体を部屋のバスルームにお湯を一杯に張り跳び込んだときの満ちたりた気持ちは、これぞ歩き遍路でなければ味わえない至福のひと時である。ホテルの浴衣に着替え、フロントに洗濯機の使用を依頼したところ、ラグビー大会参加の子どもたちが使っているので、外のコインランドリーまで行って欲しいとのこと。
 下着の半そでシャツとパンツ・靴下以外の予備は持って来ていないので、毎日洗濯するかそのまま着続けるかになるかだが、雨でグショグショでは洗濯せざるを得ない。

 翌日は第44番大寶寺(だいほうじ)と第45番岩屋寺(いわやじ)を巡拝するのだが、打戻りとなるので、昨日の疲労もあり日程調整の上ガーデンホテルの連泊とした。
 ホテルを早めに出て大寶寺に向かったのだが、参道に着くと樹齢300年もの杉や檜が迎えてくれた。
 岩屋寺の大西住職はネットの仲間である河村正信さんの同級生との事で、運良くお目にかかれたのでご挨拶をしたのだが、帰りにカラオケテープのおみやげを戴いた。
 ・二葉百合子の「海鳴りの涯に」―留学生・空海の修行を唄った歌
 ・芹 洋子の「鈴の音山河」―札所を訪ねて歩くお遍路を唄った歌

(奥村)
内子座 大寶寺本堂 岩屋寺(岩盤に覆われるように建っている本堂)